2025年1月15日
偽物の寿司を作った日本人たち Part 1:カリフォルニアロール、1970年ロサンゼルス
カリフォルニアロールほど軽蔑されている寿司はない。
アボカド、カニカマ、裏巻き。海苔が内側に隠され、外側には胡麻やとびこがまぶされている。本物の寿司を愛する人間なら眉をひそめる代物だ。アメリカ人が日本食を理解できずに作り上げた模造品。そういう認識が広く共有されている。
ところが、この料理を発明したのは日本人だった。
1960年代から70年代にかけて、ロサンゼルスのリトル・トーキョーにある東京會舘で働いていた加藤一郎(一説にはIchiro Mashita)という寿司職人がいた。同じ頃、バンクーバーでは東條秀和という職人が、ほぼ同じものを独自に考案していた。二人の日本人が、太平洋を挟んだ別々の都市で、似たような発明に辿り着いた。これは偶然ではない。
彼らは同じ問題に直面していた。
当時の北米では、寿司に適した新鮮なマグロを安定して仕入れることが難しかった。特にトロは手に入らない。そしてアメリカ人の多くは、海苔の黒い見た目と独特の食感を気味悪がった。生の魚を食べる習慣もなかった。
普通に考えれば、諦めるところだ。しかし彼らは職人だった。
加藤は、アボカドに目をつけた。カリフォルニアでは一年中手に入る。そして醤油をつけて食べると、脂の乗ったトロに似た味わいがある。これは偶然の発見ではない。トロの食感、脂の広がり方、舌の上での溶け方を身体で知っている人間だけが気づける類似性だ。日本で何百回もトロを握ってきた経験が、異国の果物の中に故郷の味を見出させた。
海苔を内側に巻く「裏巻き」も、妥協ではなく解決策だった。海苔の味と食感を残しながら、見た目の抵抗感を減らす。客に寿司の本質を届けるための工夫だった。
東條秀和は後にこう語っている。「伝統的な寿司の哲学は、新鮮な地元の魚を使うことだ」。だから彼はバンクーバーで獲れるダンジネスクラブを使った。日本から空輸した魚にこだわるのではなく、土地の食材で寿司の精神を実現しようとした。
これは「偽物を作ろう」という試みだったのか。そうではないだろう。彼らは「どうすれば寿司の本質を、この土地で、この人々に届けられるか」と考えた。それは、どの時代のどの職人も直面してきた問いと同じだ。
カリフォルニアロールは、アメリカ人が日本食を誤解して生み出した模造品ではない。日本人の職人が、海を渡った先で、自分たちの技術と味覚を新しい環境に適応させた結果だ。彼らの手には、日本で培われた何十年もの経験があった。アボカドの中にトロを見出す目は、その経験からしか生まれない。
ではこれは、カリフォルニアという特殊な場所で起きた孤立した例外なのだろうか。
実は、同じ物語が世界中で繰り返されている。次回は、南米ペルーで日本人移民が起こした、もう一つの料理革命を追う。